硝子体手術とは
硝子体(しょうしたい)手術とは、主に網膜や網膜の中央にある黄斑部の病気を治療するために行われる手術です。
硝子体は眼球内の大部分を満たしている透明なゼリー状の組織で、眼球の形状を保つ役割を果たしています。この硝子体の透明度が落ちて視力が低下したり、硝子体が網膜を引っ張って剥がしたり、網膜に異常な増殖膜を作るといった症状に対して硝子体手術の適応が検討されます。
手術は眼球表面の白目の部分に極小の穴を3ヶ~4ヶ所開けて、そこから眼球内を照らす器具、眼球の形状を保つ灌流(かんりゅう)液を注入する器具、不要な組織を切除・吸引する器具を挿入して行われます。これらの器具を駆使して硝子体や増殖膜を取り除いたり、剥がれた網膜を復位させたりするなど、それぞれの病気に応じた処置を施した後、取り除かれた硝子体の代わりに医療用ガスなどが注入されて手術が終了します。病気の種類や症状の程度によりますが、手術の所要時間は1~3時間程度となります。
また、医療用ガスを注入した場合は、そのガスの浮力によって網膜を眼底(眼球の奥)に押しつけて定着させる必要があるので、手術後1週間程度はできるだけうつぶせなどの姿勢で過ごす必要があります。
当院の特徴:日帰り硝子体手術
網膜・黄斑疾患では、症状が進行していると硝子体手術が必要となります。
当院の硝子体手術の特徴は、
1.切り口が小さい低侵襲手術
硝子体手術は、以前は0.9mmの太さの20G注射針を使用しており、結膜の切開や縫合も必要でしたが、技術の進歩に伴い、現在では結膜の切開なしに、細い25G(0.5mm)、更には27G(0.4mm) の針を用いた手術が可能となりました。当グループでは全ての手術を最小切開である27Gシステムで行い、特別に必要な場合以外、全例を無縫合で行っています。これにより、手術時間が短くなるだけでなく、術後の炎症も大幅に減少し、患者さんの負担や術後の痛みや違和感の軽減と回復の速さに貢献しています。
2.日帰り手術で患者さんの負担軽減
患者さんに負担が少なくて済むように、日帰り手術で実施しています。その為、経済的、身体的、精神的な負担を軽減でき、入院治療よりも早期社会復帰が可能です。
※ただし、術後のうつむき姿勢が必要な場合やご家族が自宅にいらっしゃらない場合などは、入院できる医療機関をご紹介いたします。
3.白内障と同時手術が可能
白内障と同時手術が可能です。主に加齢などが原因で起こる網膜・黄斑疾患では、白内障を患っている患者さんも多くいらっしゃいます。その場合、手術が1度で済むように同時手術を実施しております。
4.緊急手術:難易度の高い手術への対応
急性緑内障発作や難易度の高い白内障手術で硝子体手術が必要になった際にも当院で手術実施できますので、安心して手術を受けていただけます。
5.万全な感染症対策
感染症対策、手術後の合併症に対する対策も万全に行っております。患者さんに安心して手術を受けていただける体制を整えております。
硝子体手術を必要とする病気
硝子体手術は主に以下のような病気に適応となります。
網膜剥離
網膜が眼底の内壁から剥がれて、視野欠損や視力低下が生じる病気です。網膜に裂け目や孔(あな)が開いただけの段階ならレーザー光凝固術(網膜光凝固術)による治療が可能ですが、そこから硝子体の水分が侵入し、網膜が眼底から浮き上がって剥がれてしまうと硝子体手術が必要になります。
糖尿病網膜症
糖尿病による高血糖な血液の影響で網膜の血流が悪化する病気です。血流の悪化が進むと、それにより発生した網膜上の酸素や栄養を補給できない部分に、新生血管と呼ばれる異常な血管が生じ始めます。本来の血管に比べて未熟で脆い新生血管の成長を許すと、やがて硝子体出血や網膜剥離といった深刻な合併症を引き起こすことがあり、その際に硝子体手術が必要になります。
黄斑前膜(黄斑上膜)
加齢とともに硝子体が萎縮して眼底の網膜から離れる(後部硝子体剥離)際に、硝子体の一部が網膜の表面に取り残されることがあります。この取り残された硝子体から半透明の膜が形成されて、網膜の黄斑部の前方を遮ることで視力低下やものが歪んで見える変視症などが生じる病気です。治療のためには、この膜を硝子体手術で取り除く必要があります。
黄斑円孔
網膜の中央にある黄斑部は視力の良し悪しを司る重要な組織ですが、さらにその中央には黄斑部の中でも最も高精細にものの色や形を識別することのできる中心窩(ちゅうしんか)という凹みがあります。この中心窩の凹みが後部硝子体剥離により引っ張られて浮き上がり、そこに孔が開くことで視力低下や変視症などが生じる病気です。この孔を閉じるために硝子体手術が必要になります。
黄斑浮腫
網膜上の血管からの出血などによってあふれ出た血液やその成分が網膜の黄斑部にたまることで浮腫(むくみ)が生じる病気です。それにより視力低下や視野欠損、変視症といった症状が現れます。糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症のような血流の悪化を原因とする病気やぶどう膜炎のような炎症系の病気などによって発症します。この浮腫を軽減させる目的で行われる治療の選択肢の一つが硝子体手術になります。
硝子体出血
硝子体に隣接する眼底などから生じた出血が硝子体内にたまって起きる病気です。出血が少量の場合は自然な吸収を待つこともありますが、大量の場合は硝子体の透明度が落ちて網膜まで光が届きにくくなり、視力が低下する場合があります。その際の視力への影響が大きいほど硝子体手術が必要になります。また、出血の原因となっている病気を特定して、同時に治療を進める必要もあります。
硝子体手術の費用
硝子体手術は健康保険適用となります。患者さんの目の状態により適応が違いますので、
手術後の注意点
硝子体手術を受けた後に共通する主な注意事項は以下の通りです。ただし、病気の種類や手術後の目の状態などによって注意点が異なる場合があります。詳しくは医師にお尋ねください。
- 手術後は出血するリスクが高いので、目をこすったり押さえたりしないようご注意ください。
- 手術後に処方される点眼薬は、手術後に合併する可能性のある重篤な炎症や感染症を予防するためのものでもあります。医師の指示にしたがって、怠ることのないようしっかりと点眼してください。なお、手術後の点眼は通常3ヶ月程度続ける必要があります。
- 手術後3日間程度は重篤な感染症にかかるリスクが特に高い期間とされています。この期間中は目に点眼薬以外の水分が入ることのないようご注意ください。例えば汗が目に入らないようにするのはもちろん、洗顔を固く絞ったタオルで拭く程度で済ませたり、シャワーや入浴を首から下だけに限定するなど、生活全般においてある程度の制限が必要になります。詳しくは医師の指示にしたがってください。
- 車を運転するためには両目で見た時に0.7以上の視力が必要です。手術後は安定した視力を得るまでに時間がかかる場合もあるので、運転を再開する時期についての自己判断は避けて、必ず医師に判断を仰いでください。
- 網膜剥離や黄斑円孔に対する処置として手術で眼球内にガスを注入した場合、そのガスの浮力によって網膜を眼底に押しつけて定着させるために、手術後1週間程度はできるだけうつぶせなどの姿勢で過ごす必要があります。詳しくは医師の指示にしたがってください。
手術後の視力回復について
病気の種類や手術後の目の状態などによっても異なりますが、多くの場合、硝子体手術の治療効果は比較的ゆっくりと時間をかけて現れます。手術後の視力も数ヶ月かけて徐々に回復し、半年程度でほぼ安定することが期待できます。
ただし、最終的に視力がどの程度回復するかは手術前の重症度によって大きく変わります。手術後にできるだけ元通りに近い視力を得るためには早期発見と早期治療を心がけ、必要と判断されたら機を逃さずに手術を受ける決断をすることが大切です。
硝子体手術の合併症
手術後、以下に挙げるような症状も含めて目に何らかの異常を感じたら、すみやかに手術を受けた医療機関を受診してください。
眼球内の出血(硝子体出血など)
確率は非常にまれですが、手術中に眼球内の動脈から急激かつ大量の出血が生じることがあります。これは駆逐性出血といわれる症状で、発生すると視力が著しく低下し、場合によっては失明に至ることもあります。
また、手術後に硝子体出血が生じる場合もあります。特に糖尿病網膜症の手術後に多く見られます。ほとんどの場合は2週間程度で治まりますが、出血の量によっては再手術が必要になります。
網膜裂孔・網膜剥離
手術中、硝子体を取り除く際に網膜裂孔が生じる場合があります。放置して網膜剥離に発展した場合は再手術が必要になります。
また、手術後にその部分から異常な増殖膜が形成される場合があります。この増殖膜が網膜を引っ張って網膜剥離が生じる症状を増殖性硝子体網膜症といい、再手術が必要になります。
眼圧の上昇(緑内障)
手術後、眼圧(眼球内部の圧力)が上昇することがあります。ほとんどは一時的なものですが、眼圧が高い状態が長期に渡って続く場合は視野欠損が現れる緑内障の発症に至ることもあります。
また、糖尿病網膜症の手術後に生じた新生血管が眼球前方の虹彩(こうさい)周辺にまで伸びることで眼圧が上昇すると、通常の緑内障よりも治療が難しい血管新生緑内障を発症することがあります。
角膜上皮障害
糖尿病にかかっている場合、角膜の表層部分である上皮が脆く傷つきやすい状態になっている傾向があります。糖尿病網膜症の手術でその角膜上皮が傷ついたことをきっかけにして、次第に上皮の欠損が悪化していく角膜上皮障害を発症する場合があります。
白内障
手術後、目の中でレンズの役割を果たす水晶体に濁りが生じる白内障を発症しやすくなることがわかっています。そこで白内障の症状がない場合でも、その予防として硝子体手術と同時に白内障手術を行うケースも珍しくありません。
充血・異物感
手術後、目の表面には手術による傷が残ります。この傷自体はしばらくすると目立たなくなりますが、その後も充血のしやすさやゴロゴロとした異物感が残る場合があります。
感染症
感染症対策を万全に行っていても、非常にまれな確率で手術後に病原体が目に入り込んで繁殖し、感染症(感染性眼内炎)を引き起こす場合があります。手術後に起きる可能性のある合併症の中でも重篤度が高く、放置すると失明に至ることもあるので、再手術も含めた早急な治療が必要になります。