白内障と多焦点眼内レンズ
白内障と診断され、手術が必要となった患者さん向けに多焦点眼内レンズについての説明を動画で説明しています。ご参考にしてください。
多焦点眼内レンズとは
多焦点眼内レンズは、遠近両用眼鏡のような機能を持っています。老眼だけでなく、近視や乱視も同時に矯正が可能ですから、手術後に眼鏡が不要になる方が90%以上となっています。
ただし、多焦点眼内レンズには向き不向きがあります。眼内レンズは半永久的に使用でき、交換や外して手入れする必要はありませんが、入れ替えるのは簡単ではありません。事前にメリットとデメリットをしっかり知って、慎重に検討したうえで選択しましょう。
選定療養とは
選定療養とは、健康保険適用外の治療を追加費用負担することで、保険適用の治療と合わせて受けることができる制度です。
2020年4月から多焦点眼内レンズを用いた白内障手術が選定療養で実施できることとなり、当院でも3焦点眼内レンズであるクラレオンパンオプティクス、クラレオンパンオプティクストーリックを用いた白内障手術が選定療養を利用して受けていただくことができるようになりました。
白内障手術自体は通常の保険適用の手術で受けていただくことができ、多焦点眼内レンズ(クラレオンパンオプティクス、クラレオンパンオプティクストーリック)を選択することでかかるレンズの費用の差額のみを自費で追加負担いただくことで手術を受けていただくことができます。従来であれば、全額自己負担であった多焦点眼内レンズを用いた白内障手術費用の負担を軽減できる制度となります。
このような方にお勧めです
老眼鏡をかけるのがおっくうな方、スポーツなどをアクティブに楽しみたい方に向いています。ただし、夜間の運転を多くされる方などには不向きな場合があります。
多焦点眼内レンズの手術を受けた方のアンケートでは、90%以上の方が術後の日常生活で眼鏡が必要なくなったお答えいただいています。
特性をご理解いただける方
多焦点眼内レンズは眼鏡をかけない暮らしが期待できますが、一方でその特性に伴うデメリットもあります。特性や医師の説明をよくご理解いただけない場合には、手術を受けられない可能性もあります。
見え方の問題
多焦点眼内レンズは近方と遠方に光を振りわけます。そのため、薄暗い場所で見え方が少しぼんやりする傾向を持っています。 手術後、慣れるまでにある程度の時間がかかる場合があります。
多焦点眼内レンズの手術を受けた方のアンケートでは、90%以上の方が術後の日常生活で眼鏡が必要なくなったお答えいただいています。ただし、見え方は個人差がとても大きく、また満足度もそれぞれ異なります。そして、多焦点眼内レンズの手術を受けた場合でも、眼鏡が必要になるケースがないわけではありません。特に細かい文字を扱ったり、精度の高い手作業のお仕事、長時間パソコンなどの画面を見るお仕事などをされている場合には、眼鏡が必要になるケースが多くなります。
多焦点眼内レンズの種類
多焦点眼内レンズには、回折型と屈折型があります。※回折は、波動が媒質中を伝わる際に、障害物の背後など幾何学的には入り込めない場所に入っていく現象を指す言葉です。
回折型
レンズに階段状の段差がついているため、入ってくる光が回折現象により分配され、遠方と近方の2カ所に焦点を結ぶ原理に基づいて設計されています。屈折型と違い、瞳孔の大きさに関係なく近くがよく見えることが特徴です。
屈折型
遠近両方の距離に対応するため、目に入ってきた光を、遠距離、近距離に振り分けます。遠方は明暗に関わらずクリアに見えることが特徴ですが、回折型に比べると、手元がやや見えづらい傾向を持っています。
テクニスマルチ (Tecnis Multifocal) |
シンフォニー (Tecnis Symfony) |
テクニスシナジー (Tecnis Synergy) |
レストア (ReSTOR) |
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外観イメージ | ||||
種別 | 回折型 | 回折型 | 回折型 +EDOF |
回折型 |
焦点数 | 2点 | 焦点拡張 | 2点 EDOF(遠方から中間) |
2点 |
近くの焦点距離 (どれか1つを選択) |
30cm 40cm 50cm |
66cm | 40cm | 40cm 50cm |
乱視矯正 | 不可 | 可 ※1.5Dまで |
可 | 可 40cmのみ |
クラレオンパンオプティクス (PanOptix) |
インテンシティ (FineVision) |
ファインビジョン (FineVision) |
ミニウェル (MINIWELL) |
レンティス (Lentis) |
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外観イメージ | |||||
種別 | 回折型 | 回折型 | 回折型 | プログレッシブ型 | 分節状屈折型 |
焦点数 | 3点 | 5点 | 3点 | 焦点拡張 | 2点 |
近くの焦点距離 (どれか1つを選択) |
近方 40cm 中間 60cm |
40cm | 40cm / 65cm | 45cm | 40cm |
乱視矯正 | 可 | 不可 | 可 | 可 | 可 |
テクニスマルチ (Tecnis Multifocal) |
シンフォニー (Tecnis Symfony) |
レストア (ReSTOR) |
パンオプティクス (PanOptix) |
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外観イメージ | ||||
種別 | 回折型 | 回折型 | 回折型 | 回折型 |
焦点数 | 2点 | 焦点拡張 | 2点 | 3点 |
近くの焦点距離 (どれか1つを選択) |
30cm 40cm 50cm |
66cm | 40cm 50cm |
近方 40cm 中間 60cm |
乱視矯正 | 不可 | 可 ※1.5Dまで |
可 40cmのみ |
可 |
インテンシティ (FineVision) |
ファインビジョン (FineVision) |
ミニウェル (MINIWELL) |
レンティス (Lentis) |
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外観イメージ | ||||
種別 | 回折型 | 回折型 | プログレッシブ型 | 分節状屈折型 |
焦点数 | 5点 | 3点 | 焦点拡張 | 2点 |
近くの焦点距離 | 40cm | 40cm / 65cm | 45cm | 40cm |
乱視矯正 | 可 | 可 | 可 | 可 |
多焦点眼内レンズの手術について
手術費用について
- 選定療養の適応レンズの場合は、保険診療と自己負担となります
- 自由診療の適応レンズの場合は、全額自己負担となり、保険証は使えません
- 自由診療の場合、標準的な費用は三焦点で50万円(税別)、三焦点乱視矯正ありで55万円(税別)
手術前の確認事項
手術をしてみないとわかりませんが、レンズを支える袋が弱い人は、多焦点レンズを入れられないことがあります。その場合は単焦点レンズとなり、健康保険が使えます。
術後の見え方
手術後に近くがよくみえるようになるためには、ある程度レンズに慣れる期間が必要です。人によって異なりますが、術後1ヶ月から3ヶ月くらいでよくみえるようになってきます。
眼鏡の装用について
多焦点レンズを使用すれば、日常生活でほぼ眼鏡がいらなくなりますが、まったく眼鏡がいらなくなるということではありません。日経新聞の株式欄のような特に小さい字を見るときは、眼鏡をかけたほうがよく見えます。
10人中9人が、普段の生活で眼鏡を使わなくなったとおっしゃっています。
グレア・ハローについて
多焦点レンズの性質上、夜に光るものはにじんで見えます(グレア、ハロー)。たとえば、お月さんや車のヘッドライトのまわりに少しひかりの輪が見えます。
多焦点眼内レンズの注意点
多焦点レンズは常に光を遠くと近くに割り振っていますので、すべての光が利用できるわけではありません。そのため暗いと光の量が足らず見にくかったり、はっきり感(コントラスト感度)では単焦点レンズに劣ります。
タッチアップ手術について
白内障手術が問題なく成功して予定どおりのレンズが入っても、術後に遠視や近視、乱視が残ることがあります。これは術前の検査が間違っていたわけではなく、術前の予想が外れたことによります。患者さまの目にあうレンズは実は手術が終わってみないとわからないものなのです。現在まで何百万人という方々が白内障手術を受けられています。術前検査ではそのデータと比べて患者さまの度数が予想されてきます。そのため、手術を受けられる患者さんの目が他の方々と著しく異なっていれば、手術が成功しても度数は合いません。目の長さが長い人や短い人、目の形が普通と異なる人など、術前にある程度の見当はつきますが、完全に予測することは不可能です。そのため、一定の確率で度数の予測ずれが起こってしまいます。
術後に遠視や近視が残っていても、少しであればほとんどの場合はよく見えますので問題になることはありません。しかし、ずれが大きい方や、ずれが少しでも見え方に納得がいかない場合は、患者さまの御要望があればタッチアップ手術といって、遠視や近視、乱視を修正する手術をします。
レンズの入れ換えについて
手術が成功し度数の予測ずれもなく視力が出て、検査上は何の問題がなくても、術後の見え方がどうしても患者さまの御期待にそえない場合は、患者さんの強い御希望があればレンズを入れ換えることも検討します。
レンズの入れ替え手術は水晶体をささえるじん帯に負担をかけますので、手術によりこの袋が破れたり、術後に網膜はく離や緑内障になる危険があります。水晶体を支えるじん帯や袋が弱いときは度数ずれが起こりやすいので、入れ換えの手術後にさらに見え方が悪くなる可能性もあります。
この手術は今回の白内障手術と異なり自由診療になりますので、別途費用がかかります(入れ換えるレンズにより費用は異なります)。
幸いこれまで当院ではレンズの入れ換えを御希望された患者さまはおられません。