白内障手術時の乱視矯正
当院では、白内障手術が乱視矯正の大きなチャンスだと考えております。
乱視とは
乱視とは目のゆがみです。乱視が強いと、物が二重に見えたり、めがねなしでは視力が出ません。従来は乱視はめがねで矯正するものとされてきました。しかし、めがねで矯正できる乱視には上限がありますし、めがねは構造上、眼球から離れているので、視野のどの位置でも同じような乱視矯正効果を発揮するのは困難です。
乱視矯正眼内レンズ
最近、医療技術の発達で乱視を矯正できる眼内レンズが登場してきました。術後の乱視は角膜のゆがみが原因です。そこで、目の中に入れるレンズにこの角膜のゆがみを打ち消すようなゆがみをもたせて、足し引きゼロにして全体ではゆがみがないようにしようとするのが乱視矯正の眼内レンズです。乱視矯正眼内レンズとは、目の中に入れる眼内レンズにわざわざゆがみを持たせた特殊なレンズなのです。そのため、正しい乱視量のレンズを、正しい角度で目の中に固定しないと、期待したような効果を発揮できません。
まず、正しい乱視量のレンズを選ぶのに必要なのが、正しい検査です。乱視は目の歪みを楕円に近似して測定していますので、少しの目の傾きで乱視量はすぐに変わってしまいます。コンタクトレンズやドライアイの存在でも変わる繊細なものです。そのため、当院では検査の前にコンタクトレンズを装用している方にはコンタクトレンズの休止期間が必要ですし、検査をする前には目を潤す目薬を点眼してから検査をしています。少なくとも一日に三回は測定しますし、日を変えて少なくとも二日は測定しています。また、いままでの検査機器では角膜の前面の乱視量しか測ることができませんでしたが、当院では前眼部OCTを導入していますので、角膜の後面の乱視を測定し、実際の角膜後面の乱視も考慮して乱視矯正量を決めることが可能になりました。
次に、このように測定したレンズを正しい角度で目の中に固定する必要があります。当院でも開院以来、この乱視矯正レンズを用いた白内障手術を行ってきました。この手術では角膜のゆがみと、眼内レンズのゆがみの方向を1ミリ単位で合わせないといけません。軸が1度ずれると3%効果は減弱し、30度ずれると矯正効果はなくなってしまうといわれています。
従来の方法
従来は写真にあるように、患者さんの目にマジックでしるしをつけ、それを目安に眼内レンズの方向を固定していました。しかし、マジックでしるしをつけるだけで2~3度ずれますし、患者さんが立っているときと寝ているときでは目の角度が数度から10度も変化することが知られています。そもそも検査のときに患者さんの顔が斜めに傾いていたりするとその影響も受けてしまいます。そのため、術後にばっちり乱視が治るのはなかなか難しい現実がありました。
術中ガイドシステム:VERION
そこに登場したのが、術中ガイドシステムです。これは術前検査のときに、患者さんの目の乱視と虹彩の模様を同時に撮影します。すると、この写真のように手術のときには乱視の方向を術者に正しく教えてくれます。このシステムは患者さんの目の虹彩の模様と血管を判別しますので、乱視の軸を間違えることはありませんし、なんといっても手術の前に患者さんの目にマジックでしるしをつける必要がありません。マジックでしるしをつける場合、術中に流れて消えてしまう恐れがあるため多くの場合、しるしだけでなく目に軽く傷をつけておきます。すぐになおるとは言え、余分な傷をつけるのは気が引けます。このシステムを使えば、目に余分な傷をつけることもなく、正確に眼内レンズを固定することができます。
また、医療安全の向上という点で、このシステムは最高です。虹彩の模様は一人ひとり、また左右眼で違うので、最近は銀行などの個人認証に虹彩の模様が使われています。この術中ガイドシステムでは虹彩の模様と血管を認識していますので、当院では手術のときに間違って別の患者さまを手術してしまうことや、左右眼を間違えることはありません。
当院ではこのシステムを2015年の8月に導入しました。日本では10番目、近畿圏では3番目の導入でした。このシステムを導入してから、乱視矯正の精度はかなり改善されました(学会発表)。いまではこの術中ガイドシステムは、当院の手術になくてはならない重要なシステムになっています。
老眼:多焦点眼内レンズにも応用
また、最近では老眼を治す効果を持つ多焦点眼内レンズも使用可能となりました。このレンズで、遠くも近くもよく見えるようにするためには、手術でレンズの中心を視点の中心(視軸)に合わせる必要があります。この術中ガイドシステムでは、術前に患者さんの視軸を測定し、術中に表示することができます。そのため多焦点眼内レンズの手術においても、この術中ガイドシステムを用いることで、より精度の高い手術が可能となっています。
さらに、多焦点眼内レンズに、乱視矯正効果をも持たせた多機能なレンズも使用可能となっています。その場合はレンズの軸合わせ、中心合わせが、術後の見え方にかなり影響を及ぼします。そのため、白内障手術はますますその精度が問われる時代になっていると感じています。
当院の乱視矯正3つの特徴
①正確な検査:高次収差計(KR-1W)
高次収差計を使って、患者さんの乱視を正確に検査して手術前に乱視をどこまで矯正できるかシミュレーションし、乱視矯正が可能かどうか認識することができます。
乱視矯正が難しい場合のシミュレーション例
②誤差のない手術計画:VERION
上記に記載した術中ガイドシステムがVERIONです。VERIONを使って手術前に眼球を撮影して正確な手術計画を作成します。撮影した画像をもとに角膜切開位置、水晶体前嚢切開位置、眼内レンズ挿入位置を決定します。
※VERIONで撮影した眼球データは、検査時と手術時で患者さんの姿勢が異なっていても、眼球内の血管の位置等から正確な位置を割出しているので、誤差はほとんどなく手術を行えます。
VERIONのデータを手術顕微鏡に取り込む
従来の白内障手術では、左の図の器具を使って眼内レンズの挿入位置を調整します。ですが、VERIONを使用して行う白内障手術では、検査時に撮影した約1,000枚の画像をもとにして眼球を分析した手術計画を手術顕微鏡に取り込むことで、右の図:赤丸内のようなナビゲーションが投影されます。従来の方法では、どうしても検査時との姿勢の違いや人が行う誤差が生じてしまいますが、VERIONの手術計画ではそれらの誤差が生じないように手術が実施できます。
乱視矯正するために実施する手術では、特に高精度な手術が求められます。
VERIONを用いた乱視矯正白内障手術の短期成績
はじめに
トーリックレンズを使用する白内障手術において、乱視軸の正しい マーキングは手術結果を左右する重要な手技である。
従来、角度ゲージを使用していたが、最近は術中イメージガイド システム(VERION)が使用可能となったので、その有用性 を検討した。
対象と方法
平成27年8月より、大浦アイクリニックにてVERIONを用いて白内障手術を施行した12例15眼を対象とした(VERION群)。
それ以前にVERIONを用いず従来の水平点をマーキングする方法にて白内障手術を施行した14例15眼(Manual群)を比較対照とし、後ろ向きに調査した。
結果
結論
VERIONは他覚乱視度数の改善において有用であると考えられた。
文献
無作為化試験でVERION群とManual群では裸眼視力では有意差は認めなかったが、
残余乱視・軸ずれには有意差があった。
【利益相反公表基準:該当】無
③極小の手術創:センチュリオン
現在、白内障手術の切開創を最も小さく実施できる手術機器です。白内障手術を実施する患者さんに乱視がなく、手術後も乱視の影響を極力受けないように最も小さい切開創(1.8~2.4mm)で手術を行うことができます。
また、白内障の乱視矯正手術の場合には、この切開創も乱視矯正のために利用します。
手術後のレンズの位置確認
前眼部OCT(CASIA)を使い、手術後の眼内レンズの位置を確認します。
乱視矯正でお悩みの方へ
白内障手術は、日本では年間120万件以上行われており手術方法は確立されております。ですが、乱視矯正を伴う白内障手術についてしっかりと治療方法を掲載している医療機関はまだ少ないと思います。当院では、乱視矯正が必要な患者さんに白内障手術を行うことで乱視矯正が可能かどうか手術前に確認いただいて手術を実行しております。当院でも不正乱視を矯正することはできません。
乱視矯正を伴う白内障手術をご検討で、納得のいくご説明をもとに手術を検討されたい方は当院にご相談ください。